

「家を建てるなら今が最後のチャンスかもしれませんね」
——住宅営業の現場で、そんな言葉がよく聞かれるようになりました。
たしかに、住宅価格はここ数年で大きく変わりました。
・建材価格の上昇
・人件費の高騰
・物流コストの増加
そして何より「継続的なインフレ率2%」という国の経済方針。
もはや「建築費が下がる未来」を前提に家づくりを考えるのは、危険です。
かつて「土地込みで3000万円台の新築」は、郊外なら手が届く現実的なラインでした。
しかし、現在では建物本体だけで3000万円前後というケースも珍しくありません。
理由は明確です。
構造材の高騰:木材価格は2020年から比べて約1.5倍〜2倍。
設備コストの上昇:給湯器や断熱窓などが1.2〜1.5倍。
人件費の上昇:大工・設備・電気業者なども軒並み値上げ。
さらに2024年以降、**性能向上義務化(省エネ基準適合義務)**が本格化。
今後の新築は「断熱」「耐震」「太陽光」などを前提にした仕様でなければ建てられません。
つまり、最低限の性能でも2,500〜3,000万円台がボーダーライン。
少しでもデザイン性や暮らしの質を求めれば、3,500万〜4,000万円台が現実的な水準です。
ここで問題になるのが「ライフプランの精度」です。
営業マンが「なんとなく」で作る資金計画書は、正直ほとんど意味を持ちません。
なぜなら、多くの場合——
子どもの教育費が“平均値”でしか見積もられていない
車の買い替えや保険料が考慮されていない
老後資金を「年金でなんとかなる」としている
という“希望的観測プラン”になっているからです。
住宅ローンは35年。
今後の物価上昇率が年間2%続くと仮定すれば、生活コストは20年後に約1.5倍になります。
たとえば、今の月30万円の生活費が、将来45万円に。
ローン返済が固定でも、光熱費・食費・保険料・税金は確実に上がっていく。
つまり、「今ギリギリ払える」ローンは将来は払えなくなるリスクを抱えています。
家づくりのライフプランは、**「返済可能額」ではなく「将来維持可能額」**で考えるのが鉄則です。
ポイントは以下の3つ。
子どもが中学〜大学にかけて最も教育費がかかるのが、親の40〜50代。
ちょうどこの時期に老後資金づくりも始めなければなりません。
つまり、支出が最も重なる時期を基準に家計の限界を設定する。
「ボーナス返済でなんとかなる」ではなく、「最悪ボーナスがなくても回る設計」にすることが重要です。
家は「住むための箱」ではなく、「支出を減らすための装置」でもあります。
断熱・気密性能を上げれば、光熱費は年間10万円〜15万円下げられる。
メンテナンスコストを抑える素材を選べば、20年後の修繕費が半減する。
つまり、「高性能住宅=将来の支出を減らす投資」なのです。
性能向上リノベーションやZEH住宅が国から補助を受けられるのも、このためです。
たとえば年収が今後2%ずつ上がるとしても、物価も2%上がるなら実質的な可処分所得は変わりません。
「ローン金利は今は低いから大丈夫」と思っていても、
今後金利上昇や再借り換えリスクが現実化する可能性もあります。
ライフプランは「最悪のシナリオでも生活が破綻しないか」で組み立てるのが基本です。
ここまでを踏まえると、
「価格が下がるまで待つ」という選択肢は、もはや現実的ではありません。
建築コストが下がることより、インフレによる生活コスト上昇の方が早いからです。
むしろ、「今」の方が金利が低く、建築補助金も充実しています。
大切なのは、“焦って建てる”のではなく、“戦略的に建てる”こと。
どんな暮らし方をしたいのか
どこまでの性能が必要か
将来どんな支出が増えるか
この3点を整理し、ファイナンシャルプランナーと建築士の両面で設計するのが理想です。
家づくりは感情的な決断でありながら、冷静な数字が必要な投資でもあります。
多くの失敗は、「今の家賃と同じ返済額だから大丈夫」という“なんとなくプラン”から始まります。
しかし、今後の住宅価格は右肩上がり、生活コストも上昇。
「インフレ2%」の時代において、資産価値のある家を持つことは最大の防衛策になります。
新築は今後、建物本体3000〜4000万円台が当たり前に。
「なんとなくライフプラン」では、将来破綻のリスクが高い。
インフレ2%時代の家づくりは、“支出を減らす性能”に投資することが鍵。
建て時を決めるのは、「金額」ではなく「戦略」。
今後の家づくりは、
「建てる勇気」よりも「守る設計」が求められる時代です。